▼はじめに

・ラグビーワールドカップの概要

 ラグビーワールドカップは、15人制の男子と女子の世界選手権大会で、4年ごとに開催されます。日本ではあまり人気は高くないですが、世界的な収益規模から見ると、

「夏季オリンピック」

「サッカーワールドカップ」

に次いで3番目に大きい大会となっています。

それ故に、ラグビーワールドカップは世界3大スポーツ選手権大会の一つとして称されています。

・注目度の高さ

 これまでのワールドカップの歴史では、ニュージーランドと南アフリカがそれぞれ3回優勝を果たしている実績から、南半球諸国が欧州諸国より優勢と見られてきました。

 しかしここ数年、アイルランドやフランスなどの欧州諸国が、テストマッチでニュージーランドや南アフリカを破る活躍を見せ、北と南の力の差は無くなってきたように伺えます。

 特にフランスは自国開催の今大会での優勝を見据えて、若手選手を前回大会から積極的に使い、育成してきました。

 満を持して準備してきたフランスが、ニュージーランドや南アフリカ等の強豪に対していかにして立ち向かうのか、見どころです。

▼ニュージーランド

・過去の優勝実績と歴史的な強さ

 ニュージーランドは、これまでに過去のワールドカップで3回の優勝を果たしており、そのうち2回は連覇を達成しています。ニュージーランドは1987年に初めて開催された第1回大会で優勝し、ラグビー界にその名を轟かせました。その後、2011年の自国開催でのニュージーランド大会と2015年のイングランド大会にも優勝し、史上初の2大会連続優勝を成し遂げました。

・現在のチームの実力とランキング

 ニュージーランドの世界ランキングは現在、アイルランド、フランス、南アフリカ共和国に次いで第4位となっています。(2023年10月16日現在)

 また、今年2023年の7月〜8月に行われた南半球ラグビーチャンピオンシップでは、全勝で優勝しました。

 しかし、7月16日にウェリントンでアイルランド代表と対戦し、23-32で敗れ、8月26日に南アフリカ代表スプリングボクスに7-35と大敗を喫しました。

 以上の結果から、ニュージーランド代表は2023年のテストマッチで2戦2敗となり、直近でのテストマッチ10試合の戦績は5勝5敗と低迷し、各メディアから不安の声が上がっていました。

・キープレイヤーのプロフィール

【サミュエル・ホワイトロック】

   (引用元:MY TFI 

 サミュエル・ホワイトロック(通称:サム・ホワイトロック)はラグビーニュージーランド代表オールブラックスの象徴的なロックで、144Capを誇ります。最多キャップは、リッチーマコウの148であり、近いうちにこの記録を抜くことが予想されます。サム・ホワイトロックはワールドカップへ過去3大会出場しており、2011年、2015年の優勝に大きく貢献しました。2023年のワールドカップにおいても、予選4試合の内、3試合先発出場し、決勝トーナメントへの進出へ大きく貢献しました。

 彼のプレースタイルは、長身を生かした空中戦や激しいディフェンスです。オールブラックスでは同じくベテランであるブロディ・レタリックもしくはバレット3兄弟の内の1人、スコット・バレッドとロックのポジションを組むことが多く、安定したラインアウトの獲得や、推進力のあるモールの原動力になっています。

 ラグビー日本代表の堀江翔太がNZ留学していた時に、彼とはチームメイトでした。昨年、2022年には埼玉ワイルドナイツに所属しており、数十年の時を得て同じチームメイトになるのは運命的ですよね。

・戦術と特徴

 ニュージーランドの強さの秘訣は、高い技術力とフィジカル能力、そしてチームワークにあります。ニュージーランドの選手たちは、幼少期からラグビーに親しんでおり、ボールハンドリングやパスなどの基本技術を身につけています。

 オールブラックスの名前の由来は、まるで全員がバックスのようにボールを回している様子から、新聞編集者が「All Backs」と表記するのを間違えて「All Blacks」と表記してしまったことから来ていると言わています。当時のオールブラックスの名前の由来から来るプレースタイルは今と変わらず、体格の良いFWの選手とバックスの選手の選手が一体となって、パスをつなぎながらトライを取るスタイルは大きな強みとなっています。

 特にポッドと呼ばれる、フッカー(HO)やフランカー(FL)のようなフィジカルと機動力のあるFW選手をフィールドの端に配置し、最後彼らにボールをつないでトライを取らせる戦略はオールブラックスの大きな武器になっています。

▼フランス

・過去の優勝実績と歴史的な強さ

 ラグビーフランス代表は過去の優勝実績はありませんが、1987年、1999年、2011年の3大会で準優勝をしている実績があります。特に2011年大会では、決勝戦でニュージーランド代表に敗北するも、1点差に迫る大接戦を演じました。

 欧州6カ国対抗選手権(シックスネイションズ)では、17回の優勝を誇り、ここ2大会(2023年、2022年)は優勝しています。キャプテンのアトワンヌ・デュポンキャプテンを筆頭に若い選手が台頭しており、2020年から2021年にかけてテストマッチで14連勝するなど、自国開催のワールドカップに向けて多くの期待が寄せられています。

・現在のチームの実力とランキング

 現在の世界ランキングは、アイルランドに次ぐ第2位となっています。

 また、2023年に行われた欧州6カ国対抗選手権では優勝しています。

 ラグビーワールドカップ前の直近の戦績としては、8月5日にスコットランドと対戦し、21-25で敗れたものの、続くスコットランドの2戦目、フィジー代表、オーストラリア代表に30-27,31-17,41-17と勝利しています。

・キープレイヤーのプロフィール

【アントワンヌ・デュポン】

(引用元:AFP BB News

 1996年11月15日生まれ、26歳。フランス・ランヌメザン出身。175cm、85kg。ポジションはスクラムハーフ。デュポンは2017年に代表デビューをし、現在まで49Capを獲得しています。2019年のワールドカップでは、代表メンバーとして4試合に出場し、2020年からはキャプテンをしています。

 デュポンはスクラムハーフとして、パスやキックを高いスキルでこなすだけではなく、爆発的な瞬発力と強靭なフィジカルを生かして果敢にディフェンスを突破します。ディフェンスにおいても、タックルやジャッカルで大きく貢献し、特に2023年の欧州6カ国対抗選手権大会で、アイルランドWTBマックハンセンの腰から両腕を回して引き留めたトライセービングは、多くの観客を沸かせました。

 また、2021年にはワールドラグビー男子15人制年間最優秀選手に選ばれました。

・戦術と特徴

 「フレア」と呼ばれる創造性や感性溢れるランニングとパスプレーが特徴的です。短いパスとオフロードでテンポよくボールをつないでいくことから、「シャンパンラグビー」と称されます。

 一方、チームのコンディションに波があることから、「フランス代表は3つある」というジョークがあります。しかし、上述したように、2020年1月に現フランス代表のヘッドコーチファビアンガルディエが着任してから、2021年までテストマッチで14連勝するなど安定した強さを誇っています。

 また、チームの柱である若いHB、アトワンヌ・デュポンとロマン・ヌタマックの卓越したゲームコントールがここ近年のフランス代表の安定した強さを支えています。

▼南アフリカ

・過去の優勝実績と歴史的な強さ

 南アフリカはこれまで8回ラグビーワールドカップに出場しており、そのうち3回優勝を果たしております。この記録はニュージーランドと並んで最多タイの記録です。ラグビーワールドカップの開催が始まった当初、人種隔離政策アパルトヘイトの影響で大会に出場できない時期が続きました。

 しかし、初出場を果たした1995年の自国開催大会では、決勝戦で強豪ニュージーランド代表オールブラックスを見事撃破し、初出場初優勝と快挙を成し遂げました。このストーリーは、「インビクタス」という名前で映画化され、ラグビーファンだけでなく、世界中の多くの人に感動を与えました。

・現在のチームの実力とランキング

 現在、アイルランド、フランスに次いで第3位です。

 また、今年に行われた南半球ラグビーチャンピオンシップでは、オールブラックスに敗北し、4カ国中2位という結果になりました。しかし、ワールドカップ前のテストマッチでは、ウェールズ代表に52-16,ニュージーランド代表に35-7と快勝し、優勝候補筆頭と謳われていました。

・キープレイヤーのプロフィール

【シヤ・コリシ】

(引用元:AFP BB

 1991年6月16日生まれ、32歳。南アフリカのポート・エリザベス出身。188cm,105kg。ポジションはブラインドサイドフランカー(FL)。彼は2018年に、チーム史上初の黒人キャプテンに任命されました。コリシは、2015年と2019年のワールドカップに出場し、2019年大会では3度目の優勝に大きく貢献しました。彼のプレースタイルは、しなやかな力強いランニングと、相手の懐に鋭く突き刺さるタックルが特徴的です。

 ちなみに彼は、2023年3月のオーストラリア戦のテストマッチで、前十字靭帯断裂の大怪我を負い、4月に手術しました。ワールドカップへの出場は絶望的だと思われたものの、驚異的な回復によって出場を可能にしました。

・戦術と特徴

 南アフリカ代表の特徴は何といっても、大柄でスピードとパワーを兼ね備えたフォワードが、スクラムやモールでゴリゴリに相手を圧倒し、決定力のあるバックス陣がトライを取るプレースタイルです。特にフォワード陣は、屈強で大柄な選手だけではなく、クワッガ・スミスのような世界的には小柄とされるが機動力のある選手が活躍しています。

 また、バックスには、ランニングやパワーに優れた選手のみならず、キックに優れた選手を多く擁しており、キックで相手陣に大きく食い込むことで試合を有利に進めていきます。

▼総合的な見どころ

・個人的優勝の予想と期待

(引用元:SKY SPORTS

 個人的優勝予想はアイルランドです。私が大学生の時に、アイルランドへ語学留学をし、アイルランドという国に魅了されてからファンになったというのもありますが、優勝できる実力は十分にあると確信しています。

 しかし、上記の優勝候補に入れなかった理由は、ワールドカップでのジンクスがあるからです。そのジンクスとは、アイルランド代表はベスト8以上に進出したことがないということです。2019年大会までの過去10回の大会で、7回ベスト8に進出しましたが、いずれも準々決勝で敗退しています。2019年大会でも、予選プールで日本に負けて、プール2位で決勝トーナメントに進出するも、ニュージーランド代表オールブラックスに敗戦しています。

 今大会でのアイルランド代表は、ジョニー・セクストンやピーター・オーマニーらのベテランと、マックハンセンやキアラン・ドリスなどの実績を積んだ若手らとバランスの取れたチームになっており、初のベスト4進出を期待したいです。

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます